「オーダーだから着心地がいい」はウソです

「オーダースーツを作ってみた」というYouTube動画やブログ記事を目にしたことのある方は少なくないでしょう。その際、「いやぁやっぱりオーダーだから着心地が抜群に良いですね!」なんて表現をよく見かけるのですが、これ、本当でしょうか。

これまで既製品のスーツはもちろん、数万円レベルのものから10万円以上のものまで合計15着以上オーダースーツを仕立ててきた私としては、この表現はどうも腑に落ちないところがあります。というのも、サイズ自体はしっかり合っていても、既製品との着心地の違いを感じられなかったオーダースーツがたくさんあったからです。

ということで今回は、スーツの着心地を決めるものは何なのかという点について考えていきます。

目次

着心地は何で決まる?

スーツの着心地とは、何で決まってくるものなのか。まずはそこから考えていきましょう。ざっと挙げてみるだけでも、以下のような要素があります。

●サイズ感
・ジャケット:首まわりや肩の収まり方、ウエストの絞り具合など
・パンツ:太さ、ウエストの広さなど

●形
・肩パットの有無
・体型補正の有無(なで肩・いかり肩など)
・前振り袖など、袖のカーブ設計が合っているか
・アームホールの大きさ・位置・いせ込みの多さ
・パンツの股上・股まわりの寸法
・パンツの太ももまわりに入るタックの有無・入り方・本数

●縫製・仕立て
・一枚襟か二枚襟か
・手縫い工程の多さ・アイロンワーク(特に首周りと肩の曲線にどれだけ合わせられるか)
・芯地の種類や質、入り方
・縫製自体のレベル(国内縫製か海外縫製かなど)

●生地
・生地の素材
・生地の品質
・裏地の素材

花菱の国内縫製のオーダースーツ(詳細はこちらの記事に)

サイズ感は一要素に過ぎない

たしかに「サイズが合っている」=「フィットしているから着心地が良い」というイメージをもたれがちなオーダースーツですが、こうやってご覧いただくと、サイズは着心地にかかわる一要素に過ぎないことがお分かりいただけるでしょうか。

むしろ、ジャケットの裾や袖が長すぎたり、ウエストがぶかぶかだったりしても特に着心地が悪くなることはありませんが、縫製技術が高く首周りと肩の曲線さがはまっているだけで、着心地は格段に良くなります。

あるいは生地のストレッチ性が高かったり、柔らかいインポート生地だったりしたら、スリムフィットなサイズ感だとしても着心地はある程度良いものになるでしょう。

ですから、オーダーか既製品にかかわらず、型や仕立てなどがしっかりしていれば着心地は良くなるし、そうでなければいくらオーダーで寸法が合っていても着心地が良くなることはないわけです。

「オーダーだから着心地がいい」がウソのワケ

着心地はふつうだけど、サイズ感はぴったりなSADAの2万円オーダースーツ(詳細はこちらの記事に)

ですから、ごくごく低価格のオーダースーツ店で仕立てただけで、「オーダーだから着心地も抜群!」なんて声高に叫んでいる声に触れると、お店を褒めるためにオーダースーツのイメージを語っているだけに聞こえてならないのです。実態として、明らかなレベルで着心地が良いと感じられるスーツとは、かなりの高級生地(特にインポートものの柔らかい生地)か、ハンドメイドの工程が多い仕立てレベルの高いスーツかのどちらかかと思われます。

もちろん、サイズ感が命であるスーツですから、低価格でもオーダーができることには大きな価値があります。「低価格オーダースーツは着心地が良くない」と言っているのではなく、「オーダーだからという理由で着心地が急に良くなるなんてことはないよ」と言いたいだけです。2~3万円くらいでオーダーできるお店でも、大手どころのきちんとしたお店なら十分高品質なスーツが手に入る価値は大きいと私は思っていますので、その点は誤解のないようにしていただきたいなと思います。

スーツは着心地を追求するとどんどん価格が高くなりがちですが、「かっこよさ」については比較的低コストで実現できます。上記で述べた前提をご理解いただいた上で、低価格オーダースーツを楽しんでいただけたらと思います。

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