一般的にスーツはどのくらいもつものなのかなと調べてみると、「3、4年」あるいは「もって5年」などという情報ばかりが出てきますが、これ、本当なのでしょうか?
「せっかく高いお金をかけて買ったものなのに、そんなに寿命は短いの??」とお感じになっている方も少なくないだろうと思います。
そこで本稿では、量販店の既製品スーツから、一般的に“高級”と謳われる生地で仕立てたオーダースーツまで様々購入してきた私の経験をもとに、スーツの寿命の実態について、お伝えしていこうと思います。
5年で使えなくなるスーツは少数

結論から述べると、私が持っているスーツのほとんどは、5年以上使えているものばかりです。
たしかに5年くらい使っていると、新品同様とはいえないスーツもいくつかありますが、大半の所持品はふつうに使える状態のまま残っています。たとえば、「スーツを休ませる」という考えを持ち合わせていなかった頃、週に3回くらいの頻度で3~4年ほどガシガシ使っていたスーツがありましたが、その後もこれといった問題は出てこず、7~8年くらい経った今もきれいに使える状態です。
仮に少しよれがあったり、ほつれがあったりしても、それだけで「もうこのスーツは着られない」とはならないでしょう。よほど目立つ部分の欠陥でない限り、「まだ使える」と考える方が大半ではないでしょうか。
もし破けたり穴が開いたりしてしまった場合は、もちろんそのまま使うわけにはいかないでしょうが、それらは基本的に修理ができるものです。
つまるところ、「3~5年くらいで買い替えましょう」というのは、どんどん新しいものを買ってほしいスーツ業界の都合によってつくられたメッセージではないかと思うわけです。
以前はスーツについての知識がなく、連日同じスーツを着たり、週に何回も同じスーツを着たりしていた私ですら、「寿命3~5年説」には疑問を抱いています。まして、連日の着用を避けるなど使い方に気をつかっていれば、5年どころか、10年、あるいはそれ以上の長い期間にわたって使用することもふつうにできるのではないでしょうか。
何より、せっかく高いお金を払ったのにたった3~5年で使えなくなってしまうなんて、悲しすぎると思うのです……!
3年以内にダメになった実体験

そうは言いつつも、3~5年以内にダメになってしまったスーツもいくつかあります。
着用頻度が高い
数年でダメになったスーツ自体の特徴は後に詳しく述べますが、全てに共通するのは、その使用頻度の高さです。
たとえば出張中に2~3日連続で着用することが多かったスーツ、あるいはお気に入りで週に3日以上着用することが多かったスーツの中には、ダメになってしまうものもいくつかありました。
スーツを1日着用すると、無自覚のうちに人間が放出している汗を吸収していて、また一時的な傷みなども生じています。その後にしっかり休ませることによって、きちんと乾燥し、また傷みの修復が行われるわけです。しかし休ませることがなければ、その分スーツへのダメージは蓄積されてしまいますし、頻度が多くなると、その分ダメージが増えてしまうことは想像に難くないでしょう。
べつに、連日の着用や、週3回以上の着用がたまにあったくらいで、簡単にダメになるわけではありません。これが常習的に行われるのが問題だということです。逆に言うと、日常の中で少し意識するだけで、スーツを大きく長持ちさせられるのではないかと私は思っています。
高番手の生地のスーツ
そんな着用頻度でも問題なく長持ちしたスーツもあるのですが、以下からは、実際にダメになってしまったスーツの特徴をお伝えしていきます。
まずは「高番手の生地のスーツ」です。よく「スーパー80」「スーパー120」などと表記される数値で、これが大きいほど「高番手」ということです。
細かい説明は省きますが、これはウール素材の繊維の細さを示していて、この数値が大きくなるほど、細い繊維で作られているということになり、上品な艶が出やすく、一般的に高級とされることが多いという理解で問題ないかと思います。
高級なスーツほど長持ちすると思われがちですが、この一般原則に従うと、実は高級スーツ=繊維が細い=壊れやすいということになるんですね(もちろん、例外もたくさんあります)。
スーパー110のスーツでも…

以前、スーツカンパニーで購入した、カノニコのスーパー110の生地で作られた既製品スーツを愛用していました。スーパー110くらいを超えてくると艶感が感じられるようになってきますから、生地としては「まあまあ良い方」といったイメージでしょうか。
このスーツこそ、私の中ではじめて明確に使えなくなったスーツでして、3年くらい経過した後、背中部分が摩耗しきってしまい、透け透けの状態になってしまったのです(背中部分の写真が残っておらずすみません…)。
当時、「スーツはパンツからダメになる」と刷り込まれていた私としては、「パンツはまだまだ使えるのに、ジャケットが先にダメになるとは」と驚いたものです。
これはおそらく、着用頻度の高さだったり、リュックを背負って使うことが多かったり、あるいは職場の椅子の背もたれとの擦れだったりが原因なのでしょうが、それだけ言ったら、他のスーツだって同じこと。つまり、繊維の細い高番手スーツだったからこそ、他のスーツよりも劣化が早かったのだと思われます。
部分的に穴が開いたのとは違い、背中部分が全体的に薄くなってしまっていたので、修理のしようもなく、使えなくなってしまいました。
背抜きのスーツ
上記のスーパー110のスーツには、もう一つ思い当たる特徴がありました。
スーツのジャケットには、裏地が満遍なくついている「総裏」という仕様の一方で、背中部分を抜いた「背抜き」という仕様があります。
既製品の場合、一般的に通気性がよいとされる背抜きスーツのが主流で、私のこのスーツも、背抜きの仕様になっていました。

(今回紹介しているスーパー110のスーツとは別物です)
写真の通り、背抜きの場合は体と生地が直接接するため、ダメージが大きくなることは明らか。そうは言ってもスーツに配慮した着方をしていれば大した問題にはならないのでしょうが、当時の私はリュックを背負っての連日着用もしばしば……という感じでしたから、今思えば、背中部分がダメになるのは当然といえば当然ですね。
ポリエステル混生地のスーツ
ダメになったスーツにはもう一つのパターンが。
先ほどの高番手ウール生地の一方で、一般的に「安価で丈夫」といわれるポリエステル混の生地の場合、ガシガシ使うとテカリが出やすいのです。
天然素材に見えるように加工されていても、化学繊維であるからこそ、摩擦によってその“化けの皮”が剥がれていくイメージですね。
これも修復のしようがない上、いかにも傷んでいる感じが出てしまうので、スーツとしては致命的。「安いスーツはすぐテカる」なんていわれることがあるのは、こういうことです。
とはいえポリエステル混のスーツはたくさん持っている私ですが、明確にテカりが出てしまったのはごくごく一部です。「ポリエステル=すぐテカる」という話ではないので、そのあたりはどうか誤解のないよう。
一生モノのスーツにするために
ここまで、私の実体験をもとに「ダメになったスーツ」の例をご紹介してきたわけですが、最後にスーツを長持ちさせるための方法についても触れておきましょう。
1日着たらしっかり休ませる

調べれば色々出てくるとは思うのですが、何より重要なのは、「1日着たらしっかり休ませる」ということに尽きます。
先にも述べた通り、1日スーツを着たら、気づかぬうちに汗を吸っていたり、傷みが生じていたりするものです。これが完全に乾かないうちに、または痛みが修復しないうちにまた着てしまったら、ダメージはより大きくなってしまいます。
もちろん、着用頻度を週に1~2回くらいに抑えるということも重要であることは言うまでもありませんが、まず何を最優先にすべきかと問われれば、間違いなくスーツをしっかり休ませる習慣をつくることだと私は思います。
ハンガーにも注意
とはいえその「休ませ方」にも注意は必要で、細いハンガーを使っていたらジャケットに跡がついてしまいますし、部分的にかかる圧力がダメージになってしまいます。きちんと太さのあるハンガーを使い、自然な形で吊るしておけるようにしましょう。
またパンツについては、膝裏部分のシワが残ってしまいがち。↓こういう形で干せるハンガーを購入していただき、シワがクセになる前に伸ばせるようにしましょう。

きれいな状態になったら、やはり細いハンガーではなく、↓このような丸みのあるハンガーを使うと、折り目の跡が付かなくてベターです。

できればブラッシングも
スーツを1日着るだけで、見えるものから見えないものまで、細かいホコリがけっこうついているものです。これが残ったままだと、その部分から生地が劣化をしていくといわれます。ですから使い終わって干す前に、馬毛や豚毛の柔らかいブラシで、全体を払っておくことも重要なんですね。
これは上記ほど目立った傷みには繋がりづらいので、優先度としては劣りますが、長持ちさせるうえでは“常識”とされている方法です。大事にしたいスーツほど、ぜひ習慣にしたいところです。
参考にしていただき、スーツとの長い付き合いを大事にしていただけたらと思います!