社会人になってスーツを日常使いするようになり、次第に「安物ばかりだとバレるものなのかな」「どんなスーツを着ていれば恥ずかしくないのかな」などと考えるようになったという方も少なくないでしょう。
実際、20代のうちはある程度許されていたことでも、30代、40代、50代と年齢を重ねていくにつれて、「そんなスーツでは……」と悪い意味で目立つようになってしまうことも多々あります。
とはいえ、何も10万円以上するような高いスーツを買わなければならないという話ではありません。
そこで本稿では、大まかな年代ごとに、「スーツにはいくらかけるべきなのか」「どんなスーツを着るべきなのか」ということについて、現実的な一つの考え方をお示ししていきたいと思います。
30代以上は「ちゃんとしたものを」

まず結論めいたことの一つを述べると、「安っぽいスーツでも不自然に見られないのは20代まで」といったところでしょうか。
懐事情が決して豊かとはいえない社会人なりたての頃は、当然高価なスーツを買うことができない共通認識が世の中にはありますし、逆にいかにも高そうなスーツを着ていたら不自然に見られるくらいです。
一方で「カッコつけたい」という気持ちもあり、やたらと細身なスーツを買ったり、少し派手めな生地のスーツを買ったりするのも、20代であれば「まあ若いしね」とある程度受け入れられるところもあるでしょう。
しかし働き手として成熟もしてくる30代、管理職としての色が強まる40代、会社の中でも「上の世代」とされる50代になってくると、なかなかそうもいきません。
“学生の延長感”が許されない年代になってくると、年齢相応に大人な印象を与えるスーツを着ていなければ、そのギャップが不自然さにつながってしまうわけです。
30代になってもやたらと派手な生地のスーツを着ていたり、40代でもピチピチなスーツを着ていたりしたら、「あ、痛い人だ……」と思われてもおかしくないのは、想像に難くないですよね。
これと同様に、いかにも化学繊維感(=ポリエステル感)の強いスーツだったり、作りが安っぽいスーツだったりを着ていると、同様に「年齢不相応感」が強く出てしまいます。
学生の延長感が許されるのは20代までで、やはり30代以降は、大人としての気品が求められるし、それこそがかっこよさだと受け止められるわけです。
スーツの金額以前に、まずはこの前提を認識しておく必要があるでしょう。
「いくらかけるべきか」の基準

そうなると、派手すぎる生地は避け、細すぎないサイズ感に気をつけるとして、あとはスーツの作りや生地にも気をつかう必要が出てくると言えます。
ここからは私の主観も多分に含んでしまいますが、こうした中で一つの価格の目安となるのは、「5万円以上」といえるのではないでしょうか。
たとえば生地については、安価なポリエステルを含む生地か、ウールをはじめとした天然素材のみで作られた生地かが、一つの分かれ目になってきます。
既製品だとだいたい3~4万円台から、オーダーだと4~5万円台くらいからが、ウール100%の生地で仕立てられる最安値といえます。
その中でも、仕立ての質が高かったり、あるいはブランドが付いていたりすると段階的に高価格になってくるわけですが、細かい話をばっさり省くと、だいたい「5万円以上のウール100%生地のスーツ」を選んでおけば、生地の面でも、作りの面でも、少なくとも安っぽく見られることは回避できるのではないかと思います。
スーツカンパニーはOKで、ユニクロはNG?

たとえばコスパが若年層を中心に支持されるスーツスクエア(旧スーツカンパニー)では、だいたい4万円くらいか、セール価格で3万円台くらいからウール100%のスーツを買うことができます。まあこのお店は比較的若年層向けなので、さすがに50代、60代になると少々厳しいところがありますが、同社のようなスーツの専門店で、かつ大手どころであれば、基本的に作りの部分での心配は無い(もちろん価格帯によって優劣はありますが、最低限の品質は担保されているという意味で)という考え方はできるでしょう。
あるいは同社が展開するオーダースーツの場合、4~5万円台くらいからウール100%の生地で仕立てることができるので、スーツにおいて最重要である「サイズ感」をピッタリにする意味でも、このくらいの商品を選ぶことは“万人にとっての正解の最安値”ともいえるのではないでしょうか。オーダーなら、50代以上でもジャストサイズで品のあるスーツができるはずですから、全く問題ないといっていいでしょう。
一方で、ユニクロの「ストレッチウールウール」というシリーズのスーツ。オーダーに近い細かいサイズ調整が可能でありながら、スーパー110のある程度高品質なウール生地が98%も使用されていて、上下揃えても2.6万円程度。表向きのスペックを見るとかなりの衝撃価格ですが、こちらは如何せん作りの質がかなり低いというデメリットがあります。あくまでもカジュアルファッションのブランドですから、30代以上でユニクロのスーツをフォーマル使いするのはやはり避けたいですね。
ポリエステル混生地がダメという話ではない
つまるところ、高品質なスーツの基準となる「ウール100%」の生地で、かつ最低限の作りの質が担保されたスーツを買うとなると、だいたい4~5万円が下限となるということです。

とはいえもちろん、「30代がポリエステル混の生地を使っていたら恥ずかしい」なんてことは全くありません。今のポリエステル混生地はかなりウールに近い質感のものもたくさんありますし、ウール100%の既製品よりは、ポリエステルを50%くらい含んでいたとしてもオーダー品の方が結果的にかっこいいスーツが仕上がることがほとんどです。スーツとはそれだけサイズ感が重要なものなんですね。
ですから、「4~5万円以上のウール100%スーツ」というのはもちろん絶対的な指標ではないことはどうか誤解のなきよう。
とはいえ一つの考え方の目安としては十分意味のあるものだと思いますので、これまでスーツにあまり関心をもたれてこなかった方には、ぜひ参考にしていただけたらと思います。