オーダースーツを仕立ててみたいと思っても、「お店が多すぎて選べない!」なんてお悩みをお抱えの方は少なくないことと思います。そこでネット上で各店を比較しているブログやサイトを見てみるのはいいものの、それらに書かれている情報って、本当にアテにできるものなのでしょうか。
本稿では、いわゆるオーダースーツにおける「比較ブログ」の落とし穴についてお伝えしていきます。
たいていが“上辺の情報”の比較ばかり…

オーダースーツの比較ブログの大半に当てはまるのが、「上辺の情報の比較でしかない」という点です。
たとえば、「●●は洗練されたスタイルのスーツをつくることができる」「■■は周りと差をつけないビジネスパーソンにオススメのお店です」など、何かを言っているようで何も言っていない情報を、そのお店の特徴として紹介しているサイトがけっこうあるんですよね。つまりは各店がHPに記載している謳い文句を引っ張ってきているから、こういう書き方になるという話です。「生地は安いものからゼニアなどのインポート生地まで幅広く扱っている」とか「高品質なオーダースーツを手ごろな価格で手に入れることができる」とか、だいたいの低価格オーダースーツ店に当てはまることでしょう。
ですからそんな紹介文をもってそれぞれを位置付けているサイトは、「オーダースーツを作ったことのない人が適当に情報を集めて作ったもの」と思ってよいかと思われます。
「表に出ている情報」だけで良し悪しは判断できない
上記に続いて、「表に出ている情報」をもとに比較がなされているサイトもよくお見受けします。それは一定の意味はあると思うのですが、オーダースーツって、家電製品などのように単純なスペック比較ができる世界ではないんですよね。
たとえば、オーダースーツの種類として、一般的に「パターンオーダー」よりも「イージーオーダー」、「イージーオーダー」よりも「フルオーダー」の方が良いとされていますが、「イージーオーダーに近いパターンオーダー」もあれば、「実質的にはパターンオーダーに近いフルオーダー」なんてものもあります。つまりはその括り方だけで良し悪しが分かれるわけではなく、それぞれにグラデーションがあるわけです。
それに、縫製は海外か国内か、国内だとしたらどこの工場で製造しているか、機械工程の中にどれくらいの割合で手作業が含まれているか、芯地に使われているものは何か(毛芯か接着芯か)、型紙は時代に合っているものか、型紙が自分の体型にどれくらい合っているか、といった様々な要素で左右されるため、「同じ価格ならパターンオーダーよりイージーオーダーのお店を選んだ方がコスパがいい」と断ずることはできない世界なんです(※もちろん、パターンオーダーとイージーオーダーという要素だけを比較すれば、後者の方が良いということにはなりますが)。

しかしながら、世の「比較ブログ」は、パターンオーダーかイージーオーダーか、あとはせいぜい国内縫製かどうかくらいの、ネット上の情報でしか比較ができていないことが多いように思われます。もちろん、そのような情報の比較も参考になる部分はあるのかもしれませんが、あくまでもそれらはオーダースーツの良し悪しを決める一要素でしかないことは認識しておくべきでしょう。
その意味で、「作ってみた」という写真が載っているサイトの場合、「オーダースーツを作った経験のある人」の証明になりますし、何より実物を見ることができるという意味で、ぜひ参考にしていただくとよいのではないかと思われます。上記の通り、スーツの出来には様々な要素が重なり合うので、結局は「実物を見て(試着して)ピンと来るか」という点が大事になってくるところがあります。完成品の写真を見て「カッコいい」と思えば、そのお店に一度足を運んでみる価値はあると思います。なおいくらカッコよく見えても、それが100人中100人に最適な選択肢とは限りませんから、他人の写真はあくまでも参考程度に留めるようにしましょう。
納期はアテにしてはいけない

よく「比較表」のような形式で各店のスペックが比べられていることがありますが、そこにはたいてい「納期」の項目が設けられています。
しかしそれはアテにならない情報だと思った方がよいでしょう。
だいたいパターンオーダーなら1か月前後、イージーオーダーなら1か月ちょっとから1か月半くらいが相場とはいえるのですが、何より時期やお店の受注具合などによって納期はけっこう変わるものなんです。ですからそれらの比較情報を参考程度に受け取るの分にはよいのですが、「こっちの方が1週間くらい早そうだ!」などと優劣を判断するのはナンセンス。大まかな目安程度に受け止めておくか、あるいは「納期の早さを売りにしているお店かどうか」くらいの受け止め方に留めておくことをオススメします。
「最低価格」も参考程度に
オーダースーツ店を選ぶ上で、「価格がどれくらいか」は前提となる部分ですよね。ですから、「比較ブログ」が載せているような「最低価格」(○○円~)の情報は、選択肢を絞る上で参考にしてもよいと思います。予算が3、4万円くらいなのに、「4万6000円~」などという記載があれば、それは候補から外せますよね。
しかし、この最低価格が低いからといって、「どんなスーツも安く作れる」とは限りません。ポリエステルを含む生地なら業界最安水準だとしても、ウール100%の生地で比較すればワンランク上のお店とほとんど金額が変わらなかったり、高級生地になるとむしろ高くなってしまうなんてこともよくある話です。
あるいは水牛ボタンやキュプラ裏地など、有料オプションの価格設定などによってもオーダースーツの料金は変わってきます。

つまりは選ぶ生地やオプションの付け方などによって変動幅がある世界なので、「最低価格が一番安いお店=どんな生地でも一番安く作れるお店」とは限らないという話です。
ちなみに、これまで10着以上のオーダースーツを仕立ててきた私が辿り着いた、“きちんとした品質を保った上での最安水準”の結論は、「1着2万5000円」。それもだいたいの大手どころが同じ横並び価格を設定しているので、よかったらこちらの記事も参考にしてみてください。
結局どう選べばいいの!?
ここまでお読みいただいた方からすると、「じゃあ結局オーダースーツのお店はどうやって比較すればいいんだよ!」という話になりますよね。これについては、まずは「比較ブログ」にあるような大まかなスペックを確認するのもよいのですが、できれば「オーダースーツを作ったことのある人」が運営していると思われるサイトで、かつ「きちんと実態に即した情報を発信している」サイトの情報を確認しておくとよいと思われます。まだまだオーダースーツについては勉強中の身ですが、本サイトではこれまで10着以上の“低価格オーダースーツ”を仕立ててきた経験を踏まえながら、できる限り実態に即した情報をお伝えしていますので、よかったら参考にしていただけると嬉しいです。もちろん本サイト以外の情報も大いにご活用ください。
その上で、気になるお店があったら何より、お店で説明を聞いたり生地を見てみたりするべきです。結局、ピンと来る生地に出会えるか、気持ちの良い接客をしてくれるスタッフさんに出会えるかというのが大事になってきます。ネット情報だけでお店を決めきる必要はないのです。
そんな前提としての認識をお持ちいただきつつ、低価格オーダースーツ店について比較検証した記事もあるので、よかったら参考にしてみてください。