「1着3万円台~」「ネット通販で安く買える」などと、最近何かとよく見かけるオーダースーツ屋、ファブリックトウキョウ。「オーダースーツ」というワードで検索したことのある人なら、誰しもネット広告や、関連する記事を見かけたことがあるでしょう。
しかし同社のオーダースーツって、本当にそんなにコスパが良いものなのでしょうか。
実際は、むしろやや高い部類に入るのでは…と思う一方、なかなか悪い評判どころか、部分的なデメリットを指摘する声さえも見受けられない現状があります。
そんなモヤモヤを晴らすべく、実際にオーダースーツを作ってみた上で、コスパや他社と比較して見えたメリット・デメリットについて、検証してみました。
ファブリックトウキョウ、高いのでは…?
ネット上での評判がやたらと良いファブリックトウキョウ。
昨今はYouTuberとのコラボに力を入れているのか、複数の著名チャンネルで「ファブリックトウキョウでオーダーしてみた」という動画が投稿されていて、それぞれで良い評価を受けているのが印象的です。
その中でも気になるのが、ファブリックトウキョウがYouTube上で取り上げられるようになった“火付け役”ともいえる、某有名ファッション系チャンネルとの数年前のコラボ動画です。もう4、5年前くらいになるでしょうか。実際の店舗で社長にも登場してもらい、「オーダースーツが3万8000円で買えるなんて!」などと“破格”であるかのようにベタ褒めしていましたが、ちょっと素直には受け取れないところがあります……(※現在は値上がりして「1着42,000円~」となっています(2025年春時点))。
というのも、これだけファッションに詳しい方が、金額だけ見ればもっと安いオーダースーツがあることを知らないはずはないのに、まるで3万8000円が“オーダースーツ界のびっくり価格”かのように安さを強調するのは、少々違和感があるわけです。「ファブリックトウキョウはイージーオーダーを採用していて、パターンオーダーよりもワンランク上。それをこの価格で展開しているのは安い!」などという説明があればまだ理解はできるんですけどね。
他社に比べてやや高め?

そんな“ぼやき”は置いておいて、実際の商品のコスパについて、検証していきましょう。
4万円ほどかかる最低価格帯の商品の場合、選べる生地はウール100%ではなく、ポリエステルを50%程度含みます。ウール100%の記事で仕立てようとすると6.9万円かかってくるので、イージーオーダー(パターンオーダーよりもワンランク上)だとしても、やや高めかなという印象です。昨今はポリエステル混でもしっかりウール見えする生地は多いですし、「かっこいいスーツ」に重要なのは生地よりもサイズ感やフィット感ですから、生地の価格だけで良し悪しを比較できるものではありませんけどね。
オプションについては、AMFステッチやキュプラ裏地、本切羽などは、どれも有料オプション。本切羽3000円、水牛ボタン3000円、キュプラ裏地3000円といった感じ。
作ってみたオーダースーツについて
では、実際に私が作ってみたスーツについてもお伝えします。先ほどからチラ見せしていますが、今回はウール100%の「AUTHENTIC TRAVEL」という生地(税込み6.9万円)のブラウンを選んでみました。少し暗めに見えますが、実物はやや暗めの上品なブラウンという感じです。


簡単に仕様をご紹介すると、ジャケットは肩パットを抜いてナチュラルな雰囲気に寄せて、パンツはワンタック(太ももあたりに入ったヒダ)にして雰囲気を出しています。

サイズ感はほとんど「標準でお任せします」ということでお願いしましたが、ばっちりですね。前肩補正やジャケットの広がりを防ぐための微調整なども効いています。なお「あまり細すぎるのは好みじゃないです」とだけ伝えたので、ほんの少しゆったり目にしてもらっています。おそらく、そもそもの型紙がモダンにつくられている上、デフォルトのサイズ感も今っぽく設定しているので、誰が作っても絶対にかっこよく仕上がるような仕組みになっているのでしょう。このあたりはさすがだなと思います。
生地感はとても上品な光沢がありつつも、英国生地のような良い意味でのゴワゴワ感もあり、まさに「日常使いの良いスーツ」という感じ。これ以上光沢が強いと「気合入ってるな」感が出てきそうですが、このくらいだと自然なかっこよさがあって、個人的にとても気に入りました。
「AUTHENTIC」(税込み6.9万円)というシリーズが同社の一番の売れ筋の生地なのですが、それに次ぐくらい人気のこの「AUTHENTIC TRAVEL」は、もう少しマットな質感で、さらにシワになりにくい織り方になっているのが特徴です。
私の写真だと実際の色味が伝わりにくかったと思いますが、公式サイトにある実物写真をご覧いただくと、イメージがわきやすいかと思います。

気になる方は公式サイトよりネット予約の上、まずは説明を聞いたりサイズを測ったり、生地を見てみたりすることをオススメします。必ずしもすぐに購入する必要はありませんので。
ファブリックトウキョウのメリット・デメリット

では、実際に作ってみてわかったファブリックトウキョウのメリットとデメリットとは何なのか。これまで10着以上のオーダースーツを仕立てた経験も踏まえ、検証します。
型紙が良い=「かっこいいスーツ」ができる
何よりのメリットはここでしょう。生地の良し悪しばかりに目が向きがちなスーツですが、そのかっこよさを左右するのは、いかに体に合っているかも含めた「スーツの形」に尽きます。丈感などのサイズが合っていることが重要なのはさることながら(←これはどのオーダースーツ店でもクリアできます)、スーツ自体の形やつくりが安っぽいと、どんなに高級な生地だとしてもかっこよくは見えません。
オーダースーツ店でも、お店によっては型紙(スーツの元の形)が古いままアップデートされていなかったり、表向きのスペックが優れているばかりで、肝心な型紙には力を入れていなかったりすることがあります。
その点ファブリックトウキョウは、スタートアップ企業らしく型紙がモダンでシュッとしたシルエットになっているので、どの生地を選んでも基本的にカッコいいスーツが仕上がるといっていいでしょう。本格的なイージーオーダーを採用しているので、標準体型の方はもちろん、特殊な体型をしている方でもそこがほとんど保証されているのが強みだといえます。「絶対に失敗したくない!」というオーダースーツ初心者の方こそ、安心してオーダーできるブランドだと思います。

実際にお写真をご覧いただいて、雰囲気がいいなと思ったら、そのフィーリングは大事にした方がいいかもしれません。そもそも完成品がかっこいいと思えるかどうかはかなり重要な点ですからね。「細かいことはよくわからないけど、とりあえずかっこいいスーツがほしい」という方には良い選択肢といえると思います。
同じ生地のカラーが豊富
これも一般的な評判では見かけたことがないのですが、一つの生地に対してカラーバリエーションが豊富なので、微妙な色の好みまで選択できるというのはかなりのメリットだと感じました。
どのオーダースーツ店も、そろえている生地の種類はそれなりにあるものの、それぞれの生地はバラバラ。もちろん、ブランドごとに色んな生地を置いていたり、「フランネルスーツがほしい」と伝えれば店員さんがおすすめをピックアップしてくれたりはするわけですが、たとえば「この生地のネイビーがあったらよかったんだけど、色違いはないか…」「ちょっとグレーが明るすぎるから、ほんの少しだけ暗めなグレーがよかったな…」なんてことが度々起こるんです(オーダー慣れしている方はおわかりいただけると思います)。
その点ファブリックトウキョウの場合、先ほど述べた定番モデル「AUTHENTIC」=12色、尾州産のフランネル生地=12色、エントリーモデルのポリエステル混生地=12色といった具合に、横並びで色展開を豊富にそろえてくれているので、確実にピンとくるカラーに出会えるというわけです。特にネイビーやグレーなどの定番カラーは暗さ・明るさで段階をつけてくれているので、この点はかなりの強みだと思います。


ちなみに私がほしかったブラウン系の生地も様々な色合いのものがありました。微妙な色までこだわって決めたい方にはかなり良いポイントかと思います。
ネットオーダーは本当にメリット?
ファブリックトウキョウの中で、実店舗が担うのは採寸や生地等の紹介の役割でしかなく、購入自体はネット上で行うことがメリットとされています。「一度採寸してしまえば、同サイズで自宅でまた頼める」という便利さを売りにしているわけですね。
しかし私は、まったくもってメリットとは感じられませんでした。
私のような庶民からすると、1着数万円もするようなスーツをわざわざオーダーメイドで仕立てる機会なんて、そんなに頻繁にあることではありません。それだけ数少ないオーダーの機会であれば、きちんと採寸し直したり、細かい仕様を店員さんと相談したりしたいものです。そういう高い買い物を、「前と同じで頼めてラクラク~」などとネットで気軽に頼むなんてことはしたくないなと、個人的には思います。これがワイシャツのような消耗品であれば話は別だと思うんですけどね。
とはいえまた店舗に訪れてじっくり採寸するとなると、けっこうな時間がかかってしまうのもまた事実。細かい微調整などにこだわらない方にとっては、メリットなのかもしれません。
やはり割高感はある
と、ここまで良い感想が多くなりましたが、最初に述べた通り、他の低価格店と生地の価格だけを単純比較すると、やや割高感があるのは事実。4万円ほどの最低価格の場合はポリエステルも含む生地になりますし、ウール100%の生地となると6.9万円~という価格設定になります。
もちろん、ポリエステル混生地でもしっかりウール見えするものがそろえられていますし、生地によって様々な機能性が備わっていたりするので、それが一概に悪いなんて話ではありません。それにファブリックトウキョウはイージーオーダーのお店になるので、グローバルスタイルなどのパターンオーダー(オーダースーツの中で最も簡易的なもの)店と単純比較するのはナンセンスです。先ほども述べた通り、スーツのカッコよさとは生地よりもサイズ感や型紙などの方が重要なので、この生地の割高感をどう判断するかというところでしょう。
「とにかくかっこいいスーツを」という場合は非常に有効な選択肢かと思いますが、できるだけ安く、良い生地で仕立てたいという思いの方が勝る場合は、他のパターンオーダー店を選ばれた方が良いかと思われます。
「悪い評判」にも目を向けた上で
というわけで、人気のオーダースーツ店であるファブリックトウキョウは、きちんと他店と比較しながらコスパを検証すると、「やや高めだけどメリットはたしかにある」というのが私の感想です。
こうしたメリット・デメリットを踏まえた上で同社でオーダーするのは良いと思うのですが、大半の方は、良い面だけを見た上で決めてしまっているのではないかなと思われます。良い評判だけにとらわれすぎず、「悪い評判」にも目を向けながら決断していただけたらと私は思っています。
興味を持たれたら、まずは以下よりネット予約の上、生地を見たり説明を聞いてみたり、サイズを測ってみたりすることをオススメします。そのまますぐに買わないといけないというわけではありませんので。
他の低価格オーダースーツについて検証した記事については、以下を参考にしてみてください。
